痛車事件の後ぐらい。
面識ありだけど、ただの同僚のころの二人。
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「あ、すみませんっ」
昼下がりのやけに暖かい廊下を歩いていたら、ふいに。
激しく開いたドアから飛び出してきたのは、
高木刑事だった。
あまりの唐突さに呆然としていたら、
照れたような困ったような顔でもう一度「すみません」と。
高木刑事と呼ぶよりは、高木さんって感じの、
何と言うかその、親しみやすさを感じる高木さん。
千葉君といっつも一緒にいる高木さん。
少しの空白を開けて「あ、いえ、大丈夫です」と返すと、
またその人懐っこい笑顔で「失礼します」と、丁寧な後ろ姿で去って行った。
その軌跡を少し緊張して見送る。
もしかしたら、千葉君も一緒?
開きっぱなしのドアの中から飛び出してくるんじゃないかと。
期待して、そうじゃなくて、少しホッとしてガッカリした。
最近本当に、千葉君のことばっかり考えてる。
バッカみたい。
病気?それとも、恋の魔法?
「恥ずかし・・・」
呟いた途端後ろから衝撃。
慌てて振りかえるとノリの良い同僚達。
「苗子、今見たよー!高木さんと何話してんのよー!」
「ぶ、ぶつかっただけだよ」
「いいなぁ、私も高木さんとぶつかりたーい」
「ばか、何言ってんの」
そこから始まった高木さん素敵トークがひとしきりまわって、
佐藤さんとの仲について派生して、
これは危ないと構えた途端、名前が出た。
「千葉さんも優しいんだけどねー」
「ねー、あの人私たちと同い年だっけ?」
あ、駄目、狙わないで。
そんなこと言えやせずに黙りこくっていたら、
全然違う方向に話は流れてゆく。
「でも、オタクだもんねー」
オタクでも良いもん。
好きなことを話す時は、誰にも負けないくらいカッコイイもん。
「ぽよぽよだしねー」
ぽよぽよが・・・良いんだもん。
「恋愛とか興味なさそうだよねー」
さすがにザックリと切られたような気がした。
結構痛いなぁ。
やっぱり、他の人から見てもそう見えるんだ。
でも・・・
「あ」
空間にぽんと赤い林檎を置いたような声に顔をあげたら、
廊下の向こう側からこっちに向かってくる姿があった。
噂話をしていた後ろめたさからか、
一斉に顔を背けたみんな。
乗り遅れたというか、目が離せなかったというか、
今更背けるのも駄目な気がして視線を戸惑わせていたら、
すれ違い際、シュッと擦れた視線の先、ぺこりと頭を下げた千葉君。
反射的に下げ返す。
勢い余って、それはもう激しくお辞儀。
結んだ髪の先まで、跳ねかえるくらい。
ああ、やっちゃった。
トクトクと打つ心臓の音の中、
通り過ぎてく足音を聴いた。
でもほら、やっぱり。
「気になっちゃうんだよ・・・」
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千葉君の人気は、苗ちゃんだけにあればいい。